【第3回】闘将星野監督から学ぶリーダーコミュニケーション=濱潟好古

【第3回】闘将星野監督から学ぶリーダーコミュニケーション=濱潟好古

新年早々、とんでもないニュースが飛び込んできた。

「訃報 星野仙一さん死去 闘将逝く」

 あまりに突然すぎてたまげた。

 筆者が1歳のときに投手星野は現役を引退した。現役時代は巨人キラーと名を馳せ、通算146勝の内、35勝を巨人から上げている。

 特筆すべきは当時の巨人はV9を驀進しているもはや球界のモンスターといっても過言ではないほどの最強球団だった。今の読売巨人軍とはその強さが圧倒的に違う。戦績として35回勝ったという数字だけでは測れないのではないかというのが一プロ野球ファンとしての見解だ。

 現役時代の「投手星野」はトッププレイヤーだったが、それ以上に引退後の「監督星野」は強烈だった。年末年始に放送される「珍プレー好プレー」では必ず「監督星野」の乱闘シーンがお茶の間に届く。ブラウン管の向こう側でとにかく、怒り、吠え、審判だろうが、相手チームの年上監督やスター選手だろうが関係なく突っかかる。

 一般視聴者の立場からすればおもしろいだろうが、キレられる対象からすると怖くて仕方なかったに違いない。ただ、闇雲に怒り、吠えるだけではない。監督としても中日ドラゴンズでリーグ制覇2回、阪神タイガースでリーグ制覇1回、そして楽天イーグルスではエース田中将大を擁し日本一に輝いている。

 歴代通算勝利数1181勝は歴代10位だ。数字だけ見ると球界にその名を残す優等生監督といって間違いないだろう。

 そんな星野監督が亡くなった。

 大学時代からのライバルであり親友であった山本浩二は「言葉が出ない。早すぎる」と声を詰まらせた。元読売巨人軍の原辰徳は「仏と鬼の両方の顔を持った野球人だった」と涙をこらえながら思い出を語った。

 各メディアは今なお「星野仙一」という1人の野球人を連日ニュースで取り上げている。なぜここまで取り扱われるのか。それは単に現役時代や監督時代の成績だけではない。数字以上のインパクトがあまりにも大きすぎる。特にその「発信力」だ。

 「巨人にだけは絶対に負けるな」

 常に言い続けた。ことある度にこの文言を“発信”し続けた。タイミング、その場の状況など関係なく“発信”し続けた。

 それは試合の勝ち負けだけにとどまらない。「遊びでも巨人に負けるな」と夜は銀座に繰り出し、派手に遊ぶ。当時の巨人はお茶の間でも圧倒的な人気を誇っていた。

 テレビをつければ巨人戦だ。民放のドラマなんて巨人戦に左右され、ほとんど時間通りには始まらなかった時代だ。そんな人気球団をロックオンし、闘争心剥き出しで常に真っ向から全力勝負だった。そんな星野を人は「闘将」と呼んだ。

 この「闘将」の発信力は個人事業主の集まりであるプロ野球チームの監督のみに必要なものではない。闘将星野のこの“発信力”は一般社会でもとても重要なものと言える。特にリーダーにとっては絶対不可欠なものだ。プロ野球界と一般企業内なんて関係ない。

 最近では、何かを発信するとすぐにパワハラやモラハラと言われる傾向にある。「●●ハラスメント」なるものが市民権をもってリーダーの動きを抑圧している。ただ、そこにビビッてリーダーは発信を怠ってはいけない。

 リーダーは組織の存在する目的、目指す目標が決まったら自分の思いを発信し続けなければならない。リーダーの発信は組織の色となり、組織の向かうべき場所を明確にする。

 今でも覚えていることがある。初めて部下を持つ立場になったときに、右も左も分からずまずは部下一人ひとりの考えを知ろうと思い全ての部下と個人面談を行った。その際の多くの部下たちの発言に驚いた。

「管理職が何を考えているか分からない」

「期の初めにだけ会社としての方向性を話すが、その後どうなったか分からない」

「きれいごとを言うけれど、何も実践されてない。ただ振り回されるだけ」

 部下の多くが会社という組織に対して、不信と不安を抱えていた。組織に属する人間の不信と不安から生まれるのは衰退である。

 会社という組織の発信数の少なさと発信力の弱さから組織内の良質なコミュニケーションはなくなりいつしか最悪なディスコミュニケーションが生まれていた。リーダーの仕事とは「部下のポテンシャルを最大限に引き出し、部下の力を借りて組織として最大のアウトプットを出す」ことだ。

 「思っていること」「やるべきこと」「やってもらいたいこと」「進むべき道」をリーダーになったら熱意をもって発信しなければならない。

リーダーになると、自分の発信に対してより重い責任が生まれる。責任なんて回避したいものだ。そして、責任が重くなればなるほどこの「回避力」は高まる。心の中では「やりたい」「やってみたい」と思っているけれどなかなかそれを口に出せるリーダーは多くはない。

 とは言え、リーダーの仕事は前述のとおり最大のアウトプットを出すことだ。厳しい言い方をすれば「アウトプット」を出せないリーダーは仕事をしていないのと同じだ。

 何もビビることはない。【第1回】のコラムでも書かせていただいたが公明正大なミッションを掲げた上での発信はメリットしかない。リーダーが発信を続けると組織も動き続ける。動き続ける組織に待っているのは最高のアウトプットだ。

 2013年、闘将は楽天の監督だった。リーグ制覇をし、クライマックスを勝ち抜き、そして日本シリーズで宿敵巨人と一戦を交える。結果は4勝3敗で星野楽天に軍配が上がった。御年66歳。66歳でのリーグ優勝と日本一はプロ野球最年長記録である。

 最後まで打倒巨人にこだわった。

 あきらめずに、ぶれずにリーダーが発信を続ければその先には最高のアウトプットしかない。
晩年、星野は甥であり現阪神の2軍内野守備走塁コーチの筒井壮を自宅に呼び3時間にも及び最後のメッセージを送る。

「野球を身近なものにしようや」

 最後の最後まで発信を止めなかった野球人星野の生き様にリーダーとしての気質を見た。

濱潟好古

チームマネジメント・人材育成コンサルタント。
株式会社ネクストミッション代表取締役。
1982年福岡県生まれ。防衛大学校卒。厳しい規律、徹底された上下関係に耐えきれず600名中120名の同期が自主退校する中、大学一過酷と言われる短艇委員会に入部し、日本一を2回経験。卒業後、IT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長就任。防大時代に学んだ経験を元に独自に構築した「防大式マネジメント」を導入したところ、2年間で会社全体の売上を160%アップ、中堅、新人と関係なく、すべての営業マンに目標予算を達成させる。2016年、株式会社ネクストミッションを設立。「今いる社員を一流に」をモットーに中小零細企業の社長、大手生命保険会社のリーダー等に「防大式組織マネジメント」研修を開催している。

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