【第1回】日本ハムファイターズ栗山監督に学ぶリーダーに必要な3つの覚悟=濱潟好古

【第1回】日本ハムファイターズ栗山監督に学ぶリーダーに必要な3つの覚悟=濱潟好古

 日本プロ野球界を2刀流で圧巻した北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手のメジャー入団が12月9日(日本時間)に決まった。移籍先はロサンゼルスエンゼルス。1961年の誕生後、2002年にはワールドチャンピオンに輝き、2003年以降も黄金時代を築き上げたが2010年以降はパッとした成績を残せないでいるアメリカンリーグ西地区所属の球団である。近年の成績低迷も関係し、アメリカ国内で「和製ベーブルース」の異名をとる大谷翔平は喉から手が出るほど欲しかったに違いない。

一プロ野球ファンとしては大谷のメジャーでの活躍は楽しみでもあり、そして日本球界からいなくなることに対して若干の寂しさもある。

「メジャー全球団に“翔平が欲しい”と思わせる」

北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督は2017年シーズンが始まる前にこう決意したと12月26日に行われた大谷と同席した会見で言っている。監督として預かった選手を何としてでも成長させたい、そして何としてでも成功させたい。2017年シーズンを通じて決して変わらなかった栗山監督のその決意にリーダーとしての“あるべき姿”を見た。

 プロ野球界と一般企業では環境が異なるが、リーダーとしての”あるべき姿”はどんな環境だろうが決して変わることはない。

 “あるべき姿”はリーダーの“覚悟”と置き換えても良いかもしれない。 

 私は職業柄、社長、中間管理職を初めとする多くの世のリーダーと話しをする機会が多い。2、3名の部下がいるリーダーから100名以上の部下を持つリーダーまで様々だ。そのリーダーたちの多くが既存社員の「人材育成」について悩んでいる。とある社長は「営業部長にもっとリーダーシップを学んでもらい業績を上げてもらいたい」という。また、とある営業部長は「事業部の中の●●さんがなかなか成果を出していない。効果的な育成方法を教えてもらいたい」という。確かにリーダーとして業績を上げることや優秀な人材を育成することは必要最低条件なわけだが、それはいわゆる“やり方”である。そして、厳しい言い方をすれば“やり方”とは表面的なものだ。表面的なものは困難な状況にぶつかると時としてもろく崩れる。

リーダーとして、まず最初にやるべきこと、それは“やり方”を決める前にリーダーとして、決してぶれてはいけない”覚悟”を決めることだ。分かっているつもりでも“覚悟”をもって組織を引っ張っているリーダーは意外と多くない。

 変化し続ける市場の中で最大の成果を上げ、組織として生き抜くためには、まず自分はリーダーとしてどうあるべきか。“覚悟”を持つ必要がある。リーダーが“覚悟”をもって部下に接している組織は驚くほどにその成長スピードが速い。

 では、組織を預かったリーダーはどのような“覚悟”を持てばよいのだろうか。これまで多くの企業研修を請け負ってきたが毎度の研修でリーダーがもつべき3つの覚悟をいつも話している。

 一つ目は、とことんまでリーダーを務める覚悟。

 一メンバーとして動いていたときと、リーダーは全く違う。これまでの環境と同じように行動しても成果は出ない。そして、求められるものは今までと比べものにならないくらい大きい。「今いる部下たちのポテンシャルを最大限に引き出し、その部下たちの力を借りて組織として最大の成果をだすこと」がリーダーの仕事だ。まずはそこを徹底的に意識し、行動する必要がある。最近ではリーダーになりたくないというビジネスマンも増えているという。リーダーになりたい、なりたくないといった感情はさておき、一度リーダーになればとことんまでリーダー業務を努める覚悟を持たなければならない。

 二つ目は、公明正大なミッションを掲げ、そこからは絶対にぶれない覚悟。

ミッションとは要は「使命」のことである。任せられた組織が「何のために、誰のために」あるのかということを明文化して、全ての部下たちに浸透させる必要がある。自分本位なミッションだと部下たちはついてこない。あくまで組織のミッションだ。公明正大でないといけない。

話が脱線するが私は、大学卒業後にIT系のシステム開発会社に営業職として入社した。そして6年目に管理職になったのだが、その当時は100年に一度の大不況と呼ばれたリーマンショックの影響でIT業界は現在進行形で景気が悪化していた。当時勤めていた会社も生き残るために社員の給与カットやリストラを敢行した。当時の経営陣たちからすると苦渋の決断だったに違いない。

 管理職になった当初、経営陣からはとにかく売上を伸ばせと毎日指示がきた。とはいえ、指示を全うしようにも人材がいない。給与カットやリストラを行う会社に対して優秀な人材は不信を持ち次々と辞めていき、残った社員と言えば「会社から過去に2回リストラ宣告をされた者」「福利厚生がころころ変わる会社に対して不信しかもっていない者」などなど、ネガティブな者ばかりだった。私はリーダーとして、そのネガティブな部下たちに売上の上げ方、営業の方法とありとあらゆる手を尽くしてみたものの不景気も影響したのか一行に業績は上向かない。このままでは会社は倒産してしまう。指をくわえて業績向上を待つわけにもいかない。そこでこのミッションなるものを作ってみた。

 「すべてのお客様に満足され、選ばれ、そしてメンバー全員の幸福を追求する」

浸透するまでに多少の時間は要したものの、最終的には低空飛行を続けていた営業マンたちの1人あたりの粗利益が平均約2.4倍まで跳ね上がった。

 「何のために、誰のために」という公明正大なミッションを掲げている組織は強くなる。そして、その組織に所属している人材の成長スピードは驚くほどに速くなる。

 三つ目は、決して部下を見捨てない覚悟。

 どの組織にも2:6:2の法則がある。上位2割はとにかく優秀な人材、真ん中6割は可もなく不可もない人材、下位2割は表現悪いが落ちこぼれ集団のことだ。下位2割に対しては目をつむりたくなるときもあるかもしれないが、リーダーは決して見捨ててはいけない。何かのきっかけで大化けする可能性も大いにありうる。先にも紹介したが、リーダーの仕事は「今いる部下たちのポテンシャルを最大限に引き出し、その部下たちの力を借りて組織として最大の成果をだすこと」だ。まずは、リーダー自身が部下全員のポテンシャルを最大限に引き出しているかどうかを常に自問自答しなければならない。多くのリーダーが部下たちのポテンシャルを引き出しきれずに悩んでいる。部下たちと腹を割って話し、公明正大なミッションをベースとしたコミュニケーションを是非ともとってもらいたい。決して見捨ててはいけない。

 先の大谷翔平の会見において「アメリカでの二刀流で成功する秘訣は?」と記者団から質問されたとき栗山監督は迷いながらこう切り出した。

「正直言えば、愛なんでね・・・」

リーダーは紹介した3つの覚悟を持ち続けると同時に関わる全ての部下たちに無償の愛で接してもらいたい。

濱潟好古

チームマネジメント・人材育成コンサルタント。
株式会社ネクストミッション代表取締役。
1982年福岡県生まれ。防衛大学校卒。厳しい規律、徹底された上下関係に耐えきれず600名中120名の同期が自主退校する中、大学一過酷と言われる短艇委員会に入部し、日本一を2回経験。卒業後、IT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長就任。防大時代に学んだ経験を元に独自に構築した「防大式マネジメント」を導入したところ、2年間で会社全体の売上を160%アップ、中堅、新人と関係なく、すべての営業マンに目標予算を達成させる。2016年、株式会社ネクストミッションを設立。「今いる社員を一流に」をモットーに中小零細企業の社長、大手生命保険会社のリーダー等に「防大式組織マネジメント」研修を開催している。

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