【第5回】イチローに学ぶ動き続ける組織が持つべき「行動原則」=濱潟好古

【第5回】イチローに学ぶ動き続ける組織が持つべき「行動原則」=濱潟好古

 2018年2月9日に平昌オリンピックが開会した。2月25日までの17日間、日本を代表する一流プレイヤーたちの活躍が楽しみでしかたない。勝っても負けてもドラマがあるのが国際舞台の醍醐味だ。 

 

 国際大会のドラマと言えば今でも忘れられない大会がある。

2009年3月に開催された第2回WBC(ワールドベースボールクラシック)だ。WBCとは、メジャーリーグベースボール(MLB)機構とMLB選手会により立ち上げられたワールドベースボールクラシックインク(WBCI)が主催する野球の世界一決定戦のことだ。

日本チームは「侍ジャパン」と呼ばれ、王監督率いる第1回大会と原監督率いる第2回で強豪国を下し、世界一になっている。

 

第2回WBCが開催される1年前は北京オリンピック開催の年でもあり、当時の世間の目は2008年の北京オリンピックに向けられていた。監督人選も北京オリンピックが終わってからという「いきあたりばったり」を感じざるを得ない状況の中、選手の招集が始まった。招集選手は日本で活躍する選手だけでなく、現役日本人大リーガーに及ぶ。当時ボストンレッドソックスに所属していた松坂大輔、シアトルマリナーズ在籍の城島健司、シカゴカブス在籍の福留孝介にタンパベイレイズの岩村明憲。

 

その中でも一番の注目は当時シアトルマリナーズに在籍していたイチローだった。今やアメリカでも最も有名な日本人だ。

 

イチローの経歴をざっくり紹介すると、1992年にドラフト4位でオリックスブルーウェーブに入団。3年目の1994年に登録名を「鈴木」から「イチロー」に変えて大ブレイク。日本プロ野球界初の年間200安打に始まり、数々のタイトルを獲得し、日本プロ野球史上最年少でシーズンMVPを獲得。その後、2000年まで7年連続でパリーグの首位打者、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得し、長年の夢であった大リーグへ挑戦し、日本人野手初のメジャーリーガーとなる。

米メディアの評価がさほど高くない中、大リーグ1年目から新人王、MVP、首位打者、盗塁王、シルバースラッガー賞、ゴールデングラブ賞を獲得。さすがとしか言いようがない。

 

2009年に侍ジャパンに合流した際は、8年連続でシーズン200安打、オールスター出場、ゴールデングラブ賞を獲得ともはや外国人顔負けのバリバリのメジャーリーガーだった。当然、ファンの間でもイチローがWBCで活躍することを疑うものはほぼいなかった。筆者自身もどんな活躍をするのかワクワクしていたものだ。

そのイチローが大会開幕前の練習試合から全く打てない。大会開幕後も打率.200前後と全く本来の力を出し切れない。一ファンとしてもヤキモキしたものだ。それが、大会決勝の韓国戦で爆発する。6打数4安打、決勝の2点適時打を放ち、侍ジャパンの2大会連続の世界一に貢献する。

何を隠そう。今はほとんど存在しない「ワンセグ」なるもので、当時勤めていた会社の上長とこの瞬間を見ていた。震え、そして興奮した。

 

現役プロ野球選手の中にもイチローを尊敬するものは後を絶たない。ソフトバンクホークス所属だった川崎宗則はイチローを慕って、海を渡り、長年の夢だったイチローと同じユニフォームに袖を通した。東京ヤクルトスワローズの青木宣親はイチローに次ぐ安打製造機として日本、アメリカで活躍し、2018年に古巣ヤクルトスワローズに戻ってきた。今後の活躍が楽しみな選手の1人だ。

そして、驚くことにイチローへの尊敬はプロ野球選手だけにとどまらない。職業柄、多くの経営者や中間管理職と会う機会が多いが彼らのほとんどがイチローに対して好印象を持っている。最近ではイチローを例に出す研修会社やコンサルタントも後を絶たない。素晴らしい実績を残しているから、日米で活躍したからという理由だけではない。

イチローの特筆すべき点はその「準備力」の高さだ。「準備する」ことはビジネスマンにとっては当たり前であり、必ずやらなければならないことだ。イチローはその準備を異常なまでに行う。

調子が良い日、調子が悪い日、試合に出る日、試合に出ない日と関係なく、試合前には完璧のパフォーマンスを発揮するレベルまで自身を持っていく。いざ、フィールドに立ったときに最高のアウトプットを出すためだ。準備という“当たり前”のことをとことんまで“異常”に行うイチローに世のビジネスマンたちは惹きつけられているようだ。イチロー名言集なんてビジネス書も出ているくらいなのでそれは間違いないだろう。

 

本コラムはリーダー向けの内容になるので、ここでリーダーに置き換えて考えてみたい。イチローが行っていることは「決められた期限までに最高のアウトプットを出すために日々全力で準備をしている」ということだ。過去4回のコラムでも何度も出ているがリーダーの仕事は「部下たちのポテンシャルを最大限に引き出し、部下たちの力を借りて、最高のアウトプットを出すこと」だ。最高のアウトプットを出すために準備をするという点ではメジャーリーガーと世のリーダーは何も変わらない。

こんなことを研修などで話すと「準備なんて当たり前」というリアクションを取る経営者や中間管理職は多くいる。ただ、現実問題、ここまで徹底的に準備ができているリーダーは多くない。もっと言うと、一時的に準備はするものの、継続的に粘り強く、当たり前のレベルになるまで「準備」をやり続けるリーダーはほとんどいない。

大切なことは誰もが“当たり前”だと思っていることを“異常”なまでに行うことだ。

私事で恐縮ではあるが、一般企業に入社した際にこの当たり前のことが当たり前にできていないビジネスマンが多くて驚いた。

初めて部下を持つ立場になったときもこの点で苦労した。売上に直結する「交渉」や「クロージング」など他の工程に比べて派手なところには力を入れる部下は多くいたが、「開拓コール」や地道な「顧客フォロー」、地味な「書類作成及び資料作成」など、どちらかというと売上になるまでには時間がかかる工程に関してはついつい手を抜きがちになるものがほとんどだった。

重要だとは思ってはいるものの、実際の行動に落とし込んで徹底的に実践すること、させることは難しいと本当に感じたものだ。

難しい難しくない関係なくリーダーであれば、自分はもちろんのこと、部下たちにもこの“当たり前”のことを徹底させなければならない。なぜならば、“当たり前”の徹底は最高のアウトプットを出すためには欠かせないことだから。最高のアウトプットを出すまでの工程を徹底させなければ大切な場面でほころぶ可能性がある。

準備不足のために大切な商談で「ヘマ」をかますことほどもったいないことはない。準備不足のために、相手に「悪印象」を持たせてしまうことほど愚かなことはない。それこそ服装からだ。極端な話、毎日靴は磨いているのかというところから徹底させる必要がある。とは言え、 部下も人間だ。ただ、徹底させるだけでは、反抗したくもなるものだ。そうさせないために必要なことが徹底させること一つ一つに「意義目的」を持たせることだ。

これはリーダーとして大切な仕事になる。人は納得しなければ動かない。部下たちに納得してもらう必要がある。そのために必要なことがこの「意義目的」になる。

 

「なぜピカピカの靴でお客様先へ行かなければならないのか」

「なぜ顧客フォローが大切なのか」

「なぜ丁寧なメールを書かなければならないのか」

 

「なぜやらなければならないのか」すべての仕事の目的をはっきりさせる。しつこいようだが全てはチームとして最高のアウトプットを出すためだ。1回や2回言うだけでは浸透などしない。イチローだってそうだ。毎日、目的意識をもって準備をしている。ひたすらやり続ける。1日、2日準備をした程度であんな実績は残せない。リーダーもひたすら言い続ける必要がある。

そして、「徹底されていない」と思ったらその瞬間に本人に伝える。決して、後回しにはしない。後回しにすることは同時にチームの成長を止めていることと同じだ。徹底させられ続けることに対して反抗的な態度をとる部下もいるかもしれないが、ブレてはいけない。リーダーがブレるとチームという船がどこに進んでいるの分からなくなる。要するに遭難船と同じだ。反抗的な態度にいらだつこともあるかもしれないが、グッとこらえて意義目的を含ませた徹底指導を行い続ける必要がある。

 

「当たり前のことを当たり前にやる」

「当たり前のことをとことんまで非凡にやる」

 

この徹底こそが、最高のアウトプットを出すチームに必要な最低限の仕組だ。浸透するまでに時間がかかるかもしれない。最高のアウトプットがいとも簡単に出るようであれば、それこそすべての企業が上場している。なかなか、出ないからこそ粘って、もがき苦しみながら最高のアウトプットを出そうとする。リーダーとしての「資質」を上げるためにはこのプロセスも大切なものになる。

世のリーダーたちには粘り強く、準備を始めとする“当たり前”のことを徹底できる精鋭組織を是非作ってもらいたい。精鋭部隊を構築できれば、面白いほどにアウトプットが出るようになる。

 

 2018年2月現在、イチローはまだ所属先が決まっていない。

 年末に愛知県豊山町で行われた「イチロー杯争奪軟式野球大会」の閉会式で自身の現状を自虐的にこう話した。

 

「ペットショップで売れ残った大きな犬」

 

発言だけ聞くと、何とも後ろ向きで超絶ネガティブ感満載ではあるが一ファンとしては全く心配していない。

 

 なぜかって?

 

 当たり前のことを異常なまでに徹底できる人間の強さを知っているから。

所属先が決まろうが決まらなかろうが、今日もどこかのグラウンドで最高のアウトプットを出すための準備をしているだろう。

 

 売れ残ろうがどんな状況だろうがイチローの牙が折れることはない。

今シーズンもアメリカという野球大国で躍動するイチローを容易に想像することができる。

濱潟好古

チームマネジメント・人材育成コンサルタント。
株式会社ネクストミッション代表取締役。
1982年福岡県生まれ。防衛大学校卒。厳しい規律、徹底された上下関係に耐えきれず600名中120名の同期が自主退校する中、大学一過酷と言われる短艇委員会に入部し、日本一を2回経験。卒業後、IT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長就任。防大時代に学んだ経験を元に独自に構築した「防大式マネジメント」を導入したところ、2年間で会社全体の売上を160%アップ、中堅、新人と関係なく、すべての営業マンに目標予算を達成させる。2016年、株式会社ネクストミッションを設立。「今いる社員を一流に」をモットーに中小零細企業の社長、大手生命保険会社のリーダー等に「防大式組織マネジメント」研修を開催している。

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