【第2回】日馬富士事件から学ぶ物事を前に進めるための大切なリーダー力=濱潟好古

【第2回】日馬富士事件から学ぶ物事を前に進めるための大切なリーダー力=濱潟好古

 大相撲の初場所が1月14日から始まった。今思えば、先場所は土俵外の話題で盛り上がった。

 

 「横綱日馬富士、幕内貴ノ岩への暴行で書類送検」

 

 近年おきた大相撲八百長問題に続き、また相撲界での不祥事だ。1人の大相撲ファンとしては、とても悲しくもあり同時に虚しい気持ちになった。

 連日、各メディアは本事件を取り上げ、最終的に日馬富士は引退をするものの、それだけではまだ終わらない。貴ノ岩の親方、つまり貴乃花部屋の長である貴乃花親方の沈黙、二転三転する各関係者の発言もあり事件の真相はいまだ分からない。何ともモヤモヤした気分になるが、この事件の真相について「あーだ、こーだ」と評論家でもない私が語ることは野暮なことでもあるし、実際のところ当事者同士でしかわからないというのが本音でもある。

 大相撲の歴史は江戸時代までさかのぼる。かれこれ350年以上続いている国民的スポーツだ。幼少時の相撲界のヒーローは千代の富士だった。小さな体だが筋骨隆々。体格差が2倍はあるのではないかと思われる大関小錦との取り組みには特に心を躍らせた。大相撲場所では、千代の富士が勝った負けたで実家の食卓を賑わせたことをまるで昨日のように思い出す。みんな根っからの相撲ファンだった。

 そんな相撲界で今でも忘れられない取組みがある。あれは1991年の5月場所の初日のことだ。横綱千代の富士と当時18歳9か月だった幕内貴花田(現:貴乃花親方)との取り組みだ。仕切りは5回にも及び制限時間一杯から世紀の取組みは行われた。結果はまさかの貴花田が寄り切りで勝つというものだった。18歳9か月の金星は大相撲史上最年少の快挙だった。千代の富士はこの一戦の後、引退を決意する。千代の富士時代は幕を閉じ、代わりに若貴フィーバーが相撲界を賑わした。老若男女問わず、国民全員が若貴に熱狂した。平成大相撲の火付け役といっても過言ではないだろう。その後、貴花田は貴乃花と四股名を変えて横綱として22回もの幕内優勝を飾る。押しも押されぬ平成の大横綱だ。

 

 そんな一世を風靡し、大相撲をより大衆的なものとした貴乃花が「日馬富士事件」ではひたすら沈黙を貫いている。現役時代を知っているだけに何とももどかしい気持ちになる。貴乃花親方にもそうしなければならない理由があるかもしれない。

 しかし、「沈黙」から「解決」は生まれない。

 貴乃花親方の理事解任であったりと、処罰内容をニュースは取り上げるが実のところこの問題は全く前に進んではいない。

 

 これを一般ビジネス界に置き換えてみると、とある上場企業の役員が違う会社の若手営業マンに手を挙げて問題になるものの、当の上場企業のトップリーダーである社長が何も事情を説明せず沈黙を貫いているということと同じだ。沈黙が続けば続くほどその会社の株価は下落していく。ステークホルダーからしてみたらたまったものではない。

 複数の力士が絡み合った日馬富士事件もそうだが、一般ビジネス界でも同じだ。複数名で仕事をするときに物事が当初思い描いていた通りにうまくいくことはなかなかない。企業という組織が当初掲げた事業計画通りにうまくいけば、倒産する企業など生まれない。倒産すれば全社員が路頭に迷うことになるかもしれない。そんなときこそ、企業のトップリーダーである社長の手腕が試される。大切なことはありがたくない目の前の現状をいかにして解決するかということだ。もっというなれば、いかにして前に進めていくかということだ。社長をはじめとする、組織のリーダーたちは率先垂範して現状を打破して、物事を前に進めていかなければならない。

 自分のプライドはかなぐり捨て、泥水すすってでも現状をよくする。

 私はIT業界の出身であるが、初めて管理職になったとき100年に一度の大不況と呼ばれる「リーマンショック」の後遺症で業界全体はまさに泥沼状態だった。営業活動を行っても行っても業績は一向に上向かない。当時の経営陣たちも断腸の思いでリストラ、減給と行った。上司はそんな現状にうんざりして辞めていった。そんな状況でも一度リーダーになれば、最悪事態を好転させるための施策を打っていかなければならない。施策を打ち続けた結果、最終的に2年間で売上は160%アップした。現状を好転させようともがき苦しみながらも行動を続けた結果だ。

 自分のことはさておきまずはチームのことを考え、マネジメントをし、いかにすれば現状を打破できるか、そして同時に部下たちの負担を減らすために「自分は何をするべきか」を考え、好転するまで行動し続けなければならない。

 精神論のように聞こえるが、頭の中ではわかっていてもなかなかこれができているリーダーは多くない。

 先の貴乃花親方の話に戻る。

 自分の弟子が暴行を受け、腹を立てているのも分かる。もしかしたらそれ以上に相撲業界特有の利害関係があるのかもしれない。

 しかし、忘れてはならない。貴乃花親方も一つの部屋を持つリーダーだ。本事件で相撲業界は混とんとしている。さらには、追い打ちをかけるように行事の式守伊之助の10代の行事に対しての「セクハラ問題」までスキャンダルとして取り上げられている。

 八百長、暴行、セクハラと最近では不祥事ばかりが目に付く相撲界だが日本の国技として江戸時代よりかれこれ350年以上も続き、国民のお茶の間を賑わせてくれたという貢献度も計り知れない。こんなことで終わらせてはいけない。こんなことでファン離れをさせてはいけない。

 貴乃花親方にはぜひ沈黙を破り、リーダーとして「相撲業界の状況を好転させる」ための行動をしてもらいたい。

 こんなことを評論家でもない私が物申すのは野暮かもしれない。

 しかし、若貴フィーバーを知っているからこそ、若きころの貴乃花親方に熱狂したからこそあえて書かせていただいた。

 

「貴乃花親方、沈黙を破る。理事会と協力し大相撲業界を変えていくことを約束する」

 

近い未来このようなニュースが飛び込んでいることを心待ちにしている。

濱潟好古

チームマネジメント・人材育成コンサルタント。
株式会社ネクストミッション代表取締役。
1982年福岡県生まれ。防衛大学校卒。厳しい規律、徹底された上下関係に耐えきれず600名中120名の同期が自主退校する中、大学一過酷と言われる短艇委員会に入部し、日本一を2回経験。卒業後、IT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長就任。防大時代に学んだ経験を元に独自に構築した「防大式マネジメント」を導入したところ、2年間で会社全体の売上を160%アップ、中堅、新人と関係なく、すべての営業マンに目標予算を達成させる。2016年、株式会社ネクストミッションを設立。「今いる社員を一流に」をモットーに中小零細企業の社長、大手生命保険会社のリーダー等に「防大式組織マネジメント」研修を開催している。

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