【第7回】リーダーの「保身」は100害あって一利なし=濱潟好古

【第7回】リーダーの「保身」は100害あって一利なし=濱潟好古

 本コラムも第7回まできた。

 毎週1本ずつ寄稿している。

第1回は、日本ハムファイターズの栗山監督をテーマにリーダーに必要な覚悟、第2回は日馬富士事件から学んだリーダーに必要な物事を前に進める力、第3回は闘将星野監督から感じたリーダーコミュニケーション、第4回は常磐線女児出産から感じた部下の評価方法

第5回は世界のイチローも実践しているリーダーに必要な行動原則、そして第6回がオリンピック選手から学ぶ仕事を前に進めるための仕事術だ。

 是非ともバックナンバーも読んでもらいたい。

 

過去6回までは「時事ネタ」を絡めたコラム内容になっているが、今回は筆者の過去の経験から得た内容にしていきたい。

 私事になり大変恐縮ではあるが、筆者は防衛大学校(以下、防衛大)を卒業している。防衛大とは未来の幹部自衛官を養成する教育機関だ。神奈川県横須賀市にある「小原台」と呼ばれる高台で1学年から4学年の総勢1700名が完全全寮制の下、集団生活を行っている。

 一般大学は文部科学省の管轄であるが、将来の幹部自衛官を養成する防衛大は防衛省の管轄となる。身分も学生ではなく特別職国家公務員だ。一般大学同様の教育課程以外に訓練課程がある。各学年全員が同じ訓練を行う「共通訓練」と、2学年において陸上・海上・航空要員に区分された後に行う「専門訓練」がある。

 そして、一般大学との違いはそのキャンパスライフにある。

 まず、防衛大は完全全寮制だ。土日以外は外出できない。校内では指定された制服、作業服を着て過ごす。外出時の服装は制服であり、外出前には制服の服装点検がある。その点検に合格しなければ外出することはできない。日々、厳しい生活を送っている防衛大生にとって、外出できないことほどつらいものはない。また、4学年から1学年まで完全縦割り社会で、軍隊に近しい徹底された規律の下、将来のリーダーを育てるべく徹底的に鍛えられる。今でこそないようだが、反抗的な態度を取れば「体罰指導」が待っていた。上級生が怖すぎて反抗的な態度をとる1学年はほぼ皆無ではあったが・・・

総勢600名の1学年は4月1日が着校日となるが、初日に4学年に指導されている2学年の姿を見て驚いたことを、つい昨日の出来事のように思い出す。

 4月5日の入校日までは「お客様期間」と言われ、実際の防衛大での生活を体験する。新1学年は「防衛大で生活していけるかどうか」をこの5日間で見極められるわけだ。つい、最近までぬくぬくとした高校生活を送っていた私にとって、防衛大での生活は本当にインパクトのあるものだった。結果的にこのお客様期間で、30名前後の1学年が入校前に退校した。お客様期間が終わり、晴れて防衛大の学生となった4月5日の夜を持ち、一般大学の学生が送る夢のキャンパスライフとは対極関係にある過酷なキャンパスライフを送ることになる。そして、この4月5日の夜に上級生から言われた内容は15年以上たったいまでも忘れない。

 

「集団生活を行うにあたってのルールを説明する。1つ、ウソをつくな。2つ、言い訳するな。3つ、仲間を売るな。以上を破ったときは厳しく指導する」

 

 この3つに共通していることは「保身に走るな」ということだ。幹部自衛官になると、国家防衛、災害派遣、人命救助と、自分のことよりも優先しなくてはならないことは山ほどある。将来、幹部自衛官になり、有事の際に「保身に走る」ような行動を取られては困るというわけだ。

 「保身」とは自分の地位、名誉、安全を守ること。ウソをついて自分の地位を守ったり、仲間を売って自分の安全を守るような行動をとったときは厳しく指導された。この指導は2学年に上がるまでほぼ毎日続く。指導内容が過激すぎて、4月1日に600名いた1学年は1年の終わるころには100名以上が自主退校している。

 この「保身に走るな」ということは防衛大や幹部自衛官のみならず、一般企業のリーダーにも当てはまる。過去のコラムにも何度も出ているがリーダーの仕事は「部下のポテンシャルを最大限に引き出し、部下の力を借りて、組織として最大のアウトプットを出す」ことだ。そのために必要なことは部下との信頼関係であることは当然なことであるし、保身に走るようなリーダーであれば部下からの信頼どころか周囲からの信頼すら得ることはできない。

信頼を得られないリーダーが率いる組織に待っているのは衰退だ。

 ここからは手前みそな話になるが、ご容赦願いたい。

防衛大を卒業後、幹部候補生学校を経て、私は一般企業に入社した。6年目には管理職になり部下を持つ立場となった。

 管理職になったばかりのころ、入社1年目のIさんがお客様から大クレームをもらった。上司の私が別件で客先打ち合わせ中だったので他の先輩社員にどのように対応するか確認したそうだが「クレーム?僕が行かなければならないこと?今別件で忙しいから対応できない。とりあえず謝罪してうまくやっておいてくれ」と言われたという。

 打ち合わせが終わり、その部下からの着信に折り返し連絡したところ、その部下は「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と私に謝ってきた。

 一刻の猶予も許されない状況であったし、そもそもまだ1年目の部下だ。彼にクレーム対応はできないと判断し、自分自身のタスクはいったん後回しにし、一緒に謝罪に向かった。お客様先でクレームの理由、事の背景を伺い、心からの謝罪とトラブルの対処についてできる限りの話をした。途中、「御社の社員教育はどうなっているのか」と厳しいお言葉も頂いたが、それに対して一切言い訳はしなかった。言い訳をするとどうなるかは防衛大で痛いほど経験したことだ。そもそも、言い訳したところでトラブルは解決しない。

 

 その後、クレームは無事に落ち着いた。本来クレームから得るものではないが、とても良いことが2つ起こった。

 1つ目は、その後、このお客様との関係がとても良くなったことだ。下手な言い訳をしたり、トラブルを他の誰かのせいにしていればこのような関係を構築することはできなかっただろう。後日、先方と数回飲みに行ったがあのときの私の行動に対して「とても潔かった」とすら言われた。保身に走っていればまず生まれなかった関係だ。

 そして2つ目は、クレームをもらったIさんが当時の私の行動に感化されたのか、自分に後輩社員ができたときに同じ行いをその後輩にしたことだ。後輩社員はIさんのことをとても信頼し、尊敬するようになり、チームの空気もとても良いものとなったことは言うまでもない。

 お客様からのクレームは誰でも嫌だし、逃げ出したくなるときもあるだろう。だが、そういったときこそ「保身に走るな」を肝に銘じたい。命まで取られることなんてないので、そこは安心してよいだろう。部下のことなら猶更だ。リーダーであれば、自分のことはさておき、部下が困っていれば、それは全力で対応する必要がある。自己保身に走れば、その瞬間には自分自身は守れても、長期的に、かつトータルで見れば信頼は必ず失われる。

 

2018年1月8日、成人の日に起きた「はれのひ株式会社突然の店舗閉鎖」などは自己保身に走った結果全てを失うことになったという典型的な例だ。

 神奈川県横浜市で振袖の販売、レンタル、着付け、フォトスタジオを運営していた「はれのひ株式会社」が1月8日に突然休業し、翌1月9日より全店舗を閉鎖し、事実上の事業停止、そして同年1月26日は横浜地方裁判所から破産手続きを受けた。全ての企業が完璧な経営を行えば倒産する会社など生まれない。しかし、そうもいかないのがこの資本主義社会の現実でもある。各メディアは年始早々、このニュースを取り上げた。特に問題になったのがはれのひ株式会社のトップである篠崎洋一郎社長の雲隠れだ。篠崎社長は成人式の前から行方が分からなくなり新成人はもちろんのこと、その家族も息子娘の晴れの日を見ることなく、そして事情説明を受けることなく人生で一度の晴れ舞台を台無しにされた。怒り心頭になることも無理はない。筆者自身にとってもショッキングな事件であった。

 ここで、篠崎社長が事前に経営が厳しくなっていることを真摯に説明し、他の業者を紹介するといった誠実な行動を取っていればまた結果は変わったかもしれない。いや、100%変わっていただろう。行方をくらますという「保身に走った」結果、事態は最悪のものになった。破産したからといって誰も同情などはしない。

 

 リーダーは絶対に保身に走ってはいけない。防衛大ではこの教育を徹底される。保身に走らなければそのときはきついかもしれないが時間の経過とともに良いことしか生まれない。

 

「うそをつくな、言い訳するな、仲間を売るな」

 

この3つの教えは15年以上たった今でも生きている。

濱潟好古

チームマネジメント・人材育成コンサルタント。
株式会社ネクストミッション代表取締役。
1982年福岡県生まれ。防衛大学校卒。厳しい規律、徹底された上下関係に耐えきれず600名中120名の同期が自主退校する中、大学一過酷と言われる短艇委員会に入部し、日本一を2回経験。卒業後、IT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長就任。防大時代に学んだ経験を元に独自に構築した「防大式マネジメント」を導入したところ、2年間で会社全体の売上を160%アップ、中堅、新人と関係なく、すべての営業マンに目標予算を達成させる。2016年、株式会社ネクストミッションを設立。「今いる社員を一流に」をモットーに中小零細企業の社長、大手生命保険会社のリーダー等に「防大式組織マネジメント」研修を開催している。

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