【第4回】「常磐線女児出産」から感じた部下を評価する際に大切な2つのこと=濱潟好古

【第4回】「常磐線女児出産」から感じた部下を評価する際に大切な2つのこと=濱潟好古

「JR常磐線車内で女児出産」

 

2018年1月19日に前代未聞のニュースが飛び込んできた。

千葉県のJR柏駅に止まった常磐線の社内で25歳の女性が突然、産気づき、そのまま車内で女児を出産するという内容だった。

当初、このニュースを聞いたときは相当なインパクトだった。とはいえ、無事に女児出産とのことでほっこりする自分もいた。

 ここで気になることがある。各情報メディアでも取り上げられたが、ネットユーザーの声だ。多くのネットユーザーが「おめでとうございます」「赤ちゃんが無事出産してよかったです」と喜びと祝福の声を投稿する中、一部のネットユーザーたちからは、

 

「出産予定日前から入院しとけ」

「シート破損と電車遅延の責任は取ってもらう」

「電車止めるとはすごい出産テロだな」

 

というとてもネガティブな声も上がった。

 

 これらネガティブなネットユーザーの声に対して、1月22日放送の「ビビット」(TBS系)で、VTR出演した現役産婦人科医が猛烈に反論した。

 

「陣痛とか出産とかを自分でコントロールできると思っている方が多いかもしれないですけど、本当はどういう風な状況で陣痛が来るかはわかっていない。出産はコントロールできない」

 

 専門家が言うのだからこれは間違いないだろう。コントロールできないことに言及するネットユーザーに対して真っ向から反論していた。確かに日本には「言論の自由」というものがある。要は言いたいことは言える環境だ。さらにネットともなると顔もでなければ個人を特定できないので言いたい放題だ。ネット上で賛否両論を巻き起こした本ニュースだが、そんな中、このネガティブな投稿に対して筆者自身はとても違和感を覚えたし、悲しい気持ちにもなった。

 

 ここまで3回のコラムを書いている。1回目は日本ハムファイターズの栗山監督と大谷翔平から派生したリーダーに必要な覚悟、2回目は日馬富士事件から感じたリーダーに必要な物事を前に進める能力、そして3つ目は闘将星野監督から学ぶリーダーに必要な発信力だ。本コラムのテーマは「リーダーシップ」や「チームマネジメント」ということもあり、このネットユーザーの声を一般ビジネス社会で置き換えてみる。

 まず最初に結論から言う。ネットユーザーの中に1人でも部下を持つリーダーがいたとしたら、このネット上での発言は論外になる。先の産婦人科医も言っているが世の中にはコントロールできることと、コントロールできないことがある。コントロールできないことに対して「あーだ、こーだ」と言う時間ほどもったいないことはない。そんなことにいちいち反論や意見を申すリーダーが率いる組織は間違いなくその動きを止める。ただ、これらコントロールできないことに対して難癖をつけるリーダーは意外に多い。

例えば、1月22日に都内各地で大雪が降った。東京都心では4年ぶりに10センチ以上の積雪となり、交通機関にも多大なる影響がでた。この大雪以上に驚いたことが電車の中で文句を言っている中年サラリーマンが多くいたということだ。年齢からみても過去に少なくとも1人や2人はリードしたことがあるリーダー経験者だ。大雪に文句を言ってもしょうがない。降ってしまったものは致し方ないし、交通機関に影響が出たのは乗客たちの安全を考えたときにベストの選択である。天気までコントロールできるのは大昔の陰陽師かなにかしかいない。こんなことに「あーだ、こーだ」というのは野暮以外の何物でもない。

 リーダーはこれらコントロールできないことに時間を割いてはいけない。という話を研修などでたまにすると、ごく一部のリーダーたちから「部下の感情はどのようにしてコントロールすればよいですか」「結果の出ていない営業マンをどうやってコントロールしていいか分からない」という質問を受ける。部下たちに真剣に向き合っている、組織として最高のアウトプットを出したいという思いがあるからこそ生まれる悩みだ。

 部下をコントロールしようとしてもなかなかできない。下手にコントロールをしようとしたために「モラハラ」なんていわれることはよくある話だ。コントロールできないのであれば、コントロールをするという発想を捨てればよい。

極端な話だが、営業活動を行った結果生まれるものはなかなかコントロールできない。計画したものが全てうまくいくことなどなかなかないからだ。計画したものが全てうまくいけばこの世の中に倒産する会社など生まれない。

 では、「コントロールをする」という発想を捨てたとして、リーダーとしてどのように部下たちに最高のアウトプットを出させれば良いのだろうか。

解決策の一つに「評価方法を統一する」というものがある。職業柄、多くの経営者や中間管理職を初めとする世のリーダーたちと会う機会が多いが、その多くが部下への評価方法があいまいだ。評価方法があいまいであれば部下たちの感情をコントロールすることなどできない。コントロールするどころか、あいまいな評価からは部下たちの混乱しか生まれない。混乱した部下たちに最高のアウトプットを求めるのは酷でもあるし、またそんな部下たちが100%のアウトプットを出すことはない。

 では、どのように部下を評価すればよいのだろうか。2つしかない。

一つ目は、「確実にやれることを確実にやったときは全力で評価する」ということだ。「評価する」ということは全力で「褒める」と置き換えても良いかもしれない。

例えば、営業マンを例に挙げてみる。売上○○万円というのは極端な話、達成できるかどうかはわからない。先にもお伝えしたが100%コントロールできないことだ。私も営業マン時代、達成見込みが立っている中、突然取引先の1社が倒産して未達になったことがあった。取引先の財務状況まではコントロールできない。

しかし、営業電話を毎日100件かけるということであればどうだろう。100件電話するということは時間の管理さえすれば誰でも確実にできる。部下が100件電話するという確実にできることを確実に行ったときは全力で褒めればいい。そのプロセスにおける行動を確実に行ったときは全力で褒めるということだ。全力で褒められて怒る部下はいない。褒められるとうれしいものだ。中には、シャイな部下がいるかもしれないが心の底ではまず喜んでいると言っていいだろう。

 二つ目は、「自分たちで決めたことを確実に行ったときは全力で評価する」ということだ。「朝の挨拶を大きな声で行う」「毎朝08:00に出社する」「商談後にお客様に手書きではがきを出す」など何でもいい。部下たちが自分たちで考えて、コミットメントしたことを確実に行ったときは全力で褒める。

 要は「絶対評価」を行うということだ。確実にやれることを確実にやったとき、決めたことを確実に行ったときは全力で褒める。結果がどうなるかはわからない。ただ、確実にできることを確実に行えば、評価されるということが分かれば部下たちも動きやすい。新人だろうがベテランだろうが関係ない。仮に新人だろうが、決めたことを確実に行ったとき、決めた数字を確実に達成したとき、周囲との約束を果たしたときは心の底から褒めればよい。褒められるということは認められるということだ。これに対して嫌がる人はまずいない。少なからずうれしく思う。おだてるのとは違う。おだてるのは軽すぎる、人と比べて評価するのは失礼にあたる。自分たちで決めたことを確実にやり切ったときに褒められることで「達成感」も倍増するはずだ。

 逆に確実にやれることを確実にやらなかったとき、自分たちでコミットメントしたことをあいまいにしたときは厳しく評価をする必要がある。リーダーとしてそこはぶれてはいけない。

 やってはいけない評価方法としては、人と比べてできた、できなかった、人と比べて良かった、悪かったという「相対評価」や自分のそのときの気分で褒めたり叱ったりする「自分基準」での評価方法だ。「相対評価」や「自分基準」での評価をしていると部下たちはリーダーの顔を伺いながら日々の営業活動を行うことになる。リーダーの仕事は「部下たちのポテンシャルを最大限に引き出し、部下たちの力を借りて組織として最高のアウトプットをだす」ことだ。上司の機嫌に左右される組織からは最高のアウトプットは生まれない。

約束したことができたかどうか、自分たちで決めたことができたかどうかと「絶対評価」を行えば部下たちはみるみるうちに成長していく。

 「絶対評価」で褒めるは一流、「相対評価」で褒めるは二流、「自分基準」で褒めるは三流。リーダーはぜひともこの「絶対評価」を実践してもらいたい。

冒頭の話に戻る。出産した女性を名乗るTwitterユーザーは後日こうツィートした。

 

「生んだ場所が場所でしたので多大なるご迷惑をおかけいたしました。助けてくださった方、感謝しています」「人のために生きられる子に育ってほしいと願うばかりです」

 

  生まれた場所は専門学的にもコントロールできなかったが、生まれてきたことは事実だ。幸いにも生まれた女児は元気だという。

ぜひとも「絶対評価」をやり続け、素敵な大人になるよう子供をリードしてもらいたい。

濱潟好古

チームマネジメント・人材育成コンサルタント。
株式会社ネクストミッション代表取締役。
1982年福岡県生まれ。防衛大学校卒。厳しい規律、徹底された上下関係に耐えきれず600名中120名の同期が自主退校する中、大学一過酷と言われる短艇委員会に入部し、日本一を2回経験。卒業後、IT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長就任。防大時代に学んだ経験を元に独自に構築した「防大式マネジメント」を導入したところ、2年間で会社全体の売上を160%アップ、中堅、新人と関係なく、すべての営業マンに目標予算を達成させる。2016年、株式会社ネクストミッションを設立。「今いる社員を一流に」をモットーに中小零細企業の社長、大手生命保険会社のリーダー等に「防大式組織マネジメント」研修を開催している。

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