
【第2回】小規模企業が低価格競争をしてはいけない、5つの理由
「本当に価格って上げないとダメですか?」
つい先日、こんな相談をもらいました。
「低価格で売れるなら、今はこのままビジネスを続けていけばいいと思っています。もう少し実績を積んで、顧客からの評価をもらってから価格を上げるのではだめなのでしょうか。」
というものです。
どうしてもビジネスをしていると同業者の価格は気になりますし、ましてや強力なライバルが安い価格で売っていたら、どうしてもそこに価格を合わせたくなりますよね。
特に新製品を世に出すときは、まだ実績が少ないからという理由で価格を同業者と同じかそれ以下で販売するケースが多いと思います。中には、本来売りたい価格の半値以下の特化を提示してほぼ利益が出ない状態で売っているケースも見かけます。
低価格戦略は販売戦略としてはシンプルで導入もしやすいですし、また客数という結果が出やすいので多くの企業が採用しています。
しかし、低価格戦略は使いすぎると逆効果になると考えています。そのため、僕はいつも、小規模企業ほど低価格でビジネスをやってはいけないとお伝えしています。
なぜでしょうか?
小規模企業は価格競争以外で勝負をすべき理由として僕はいつも次の5つの理由があるとクライアントさんにお伝えしています。僕はこれを「低価格スパイラル」と呼んでここから脱出するビジネスモデルの構築をご支援しています。
では、1つずつ見ていきましょう。
理由1:自社に顧客がつかない
価格を下げたら買ってくださった顧客の多くは、あなたの会社に顧客がついたのではありません。自社に顧客がついたのではなく、価格に顧客がついています。そのため、あなたが値上げすれば顧客は離れますし、ライバルが値下げをしたら乗り換えられます。
よく、「近隣にライバルが出店してきたら顧客を奪われた」という話を聞きますが、顧客を奪われた本質的な原因は、「顧客が価格についているから」だと僕は考えています。
「安いから、あなたの会社にお願いするよ」という状況では、いつまで経っても価格による顧客の奪い合いが起こります。
そうではなく、「他ではなく、あなたの会社にお願いしたい」と言われる状況。つまり顧客があなたの会社や商品に価値を感じ、「ファン」になっている状態です。
これは、予約3ヶ月待ちの飲食店や、カリスマ美容師を見るとイメージがつきやすいのではないでしょうか。
なぜ、わざわざ3ヶ月も先までまってご飯を食べたいのか。
なぜ、通常よりも2倍以上高いにも関わらず、カリスマ美容師には行列が並ぶのか。
この顧客心理を考えてみましょう。
確かに料理がおいしいとか、技術があるといった「ウデ」があるとは思いますが、世の中にはウデがいいのに行列になっていないお店もたくさんあります。ここで1つだけ言えるのは、行列が絶えないのは「他の美容師ではなく、あなたにカットをして欲しい」と思われているか。という点です。
顧客をファンに変えることができれば、価格が変わってもお客様がつくという状況になる。この視点で、商品やサービス・スタッフ教育などのビジネスモデルを考えていくことが大切です。
理由2:薄利多売ビジネスに勝てない
薄利多売、つまり、大量生産をすることで価格を下げ、資本力と人員数を武器に一気に売っていくことで利益を生み出す。これは大きな会社ができる戦略であり、小規模企業には不向きだと考えています。
小規模企業が同じことをやろうとすると薄利で売ることはできますが、客数を伸ばすことが追い付かないケースが多々あります。
・一度に大量の商品を販売できないため、客数を増やせない
・対応できる人員が少ないため、お客様から依頼が来ても対応が追い付かない
など売り手側の限界が来てしまいます。
僕はこれを「薄利少売」、と定義しています。
小規模企業は薄利少売になってしまうからこそ、結果的に思うような利益が出せずに経営を圧迫してしまうんですね。
ここに陥らないためには、
・薄利からの脱出、つまり商品価格を適正価格に上げる
・少売からの脱出、つまりスタッフの育成など販売力強化を行う
この2つの対策がありますが、いずれかの選択をすることが、あなたの会社の利益を上げていくためには必要だと言えます。
僕の本業はこの、マーケティングと人材育成を両面から同時アプローチすることなので、通常のコンサルティングの中では両方をサポートしていますが、本コラムではあくまで「商品」というテーマに限定しているので、「薄利からの脱出」を今後も考えていきたいと思います。
理由3:貧乏暇なしビジネスになる
薄利多売の弊害の一つに、客数が増えすぎるという問題があります。利益を出すためには多くのお客様を抱えなければならず、結果的に多忙な状態が続いてしまいます。
音楽関係のスクールビジネスをやっている経営者のKさんは、1ヶ月の月謝を5,000円で設定していました。話を聞くと同業者も同じような価格で商品を提供しているので、この価格で設定しているとのことだったのですが、同時に「客数が伸びない」という悩みを持っていました。
Kさんの理想の売上は月60万円。これを月5,000円の月謝で賄おうとすると120人の顧客数が必要です。これだけの数の会員を集め続けるのも大変ですが、それ以上に、120人の顧客を毎月相手にしようとすると、必然的に朝から晩まで文字通り寝る間もなくビジネスをし続けなければいけません。
その結果、どんどんKさん自信は疲弊し、「これじゃ、どこかで雇われてた方が楽なんじゃないか」と思うようになったそうです。僕が起業に向けて準備をしていた時に出会った仲間の中には「もう集客に疲れた…」といって起業を諦めて会社員に戻ってしまった人が多くいらっしゃいました。
当時の僕に、もっとウデがあればこういった仲間を救うことができたなと後悔している面もあります。だからこそ、客数を追い続けるビジネスは、経営者が疲弊してしまうので、少ない客数で理想の売上・利益が出るモデルを確立して欲しいと伝え続けています。
また、仕事が忙しくなれば、目先の仕事にどんどん追われてしまい、
「現状は変えたいです。でも忙しくてそれどころじゃありません…。」
「売上を上げることに集中しないと、今月の支払いができないんです…」
と言って、現状を変えるために新たなノウハウを学んだり、長期的な計画を立てたりする余裕すらなくなってしまい、現状維持を続けるしかないのです。
理由4:値上げタイミングを逃す
既存顧客に対して価格を下げれるのは喜ばれますが、価格を上げるのは少しエネルギーがいります。
僕も以前、相思相愛だと思っていたクライアントさんに対して、値上げの交渉をしたことがありました。その際、社長は「わかりました。いいですよ。」と言ってくださったのですが、それから1ヶ月後、契約を打ち切られてしまいました。おそらく、幹部やその他社員からの反対意見があったのではないかと推測していますが、今でもその当時の僕自身の対応を悔やんでいます。
一度価格を決めると顧客には「このサービス内容ならこの価格だ」という「低価格マヒ」の前提が出来上がります。
そのため、私たち売り手が「これが、この内容のサービスなら適正価格だ」と思っていたとしても、顧客の頭に出来上がった「相場」を覆すのは大変です。
また、多くの場合は値上げをせずに当初からのお客様は、破格の値段と破格の特別サービスでサービスを提供し続けてしまっているケースも少なくありません。
そのため、値上げをする際は
・なぜ値上げをするのか
・値上げをする代わりにどんな特典を提供できるか
・値上げする顧客側のメリットは何か
などを考え、丁寧に説明を行っていく必要があります。
理由5:低価格が市場認知になる
理由4の「低価格が顧客の相場になる」という話と連動しますが、これは、その後のビジネスにも大きく影響します。起業当時の僕は、今では破格と言える金額でコンサルティンをお受けしていました。そのため、クライアントさんは非常に喜んでくれるため、良い口コミをしてくださいます。
「西尾さんのコンサルはイイですよ」
「しかもこの金額で、こんなにやってもらえますよ」
と。
褒めてくれ、紹介してくれるのは嬉しいことですが、これでは「安い先生」というイメージがついてしまいます。すると、紹介された人も「このくらいの金額でやってくれる」と思った状態で僕の所に相談に来るため、本来の価格を提示すると「高いですね・・・」と言われて契約が取れませんから、はやり得値で対応せざるを得なくなります。
いったん広まった低価格という市場認知を覆すのは大変だからこそ、価格以外で選ばれる状態を作っていかなければならないのです。
いかがでしょうか。
あなたはこの5つの理由で取り上げたような「低価格スパイラル」に陥っていないでしょうか。
低価格で売ること = 自社(自分)の価値を低く見せること
ですから、ぜひそこから抜け出していってほしいと願っています。
では、どうやってこの「低価格スパイラル」から脱出していくのか。
それは、次回以降のコラムで具体的にお伝えしていきますので、
愉しみにしていてください。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

高額商品のセールスデザイナー/先生ビジネスプロデューサー。株式会社プレジャーデサイン代表取締役。1983年神奈川生まれ。神奈川大学経営学部卒。起業家・ベンチャー企業の「顧客獲得力」を高める専門家。キラーコンテンツ開発・WEB集客・セミナー企画など、
総合プロデュースを行っている。競泳のトップアスリートとして、ジュニアオリンピックや日本選手権に出場。大学時代は選手兼コーチとして、後輩の指導も行う。卒業後には、業界大手の建設会社に就職し、28歳で現場責任者となる。その後コンサルタントとして独立。支援したクライアントが3ヵ月で前年比4倍の売上など、成功事例を多数輩出。出版した『30日で人を育てる技術』は、分かりやすいと評判に。年間260回以上セミナー等に登壇し、100名以上の経営者を個別にプロデュースしている。「学びとビジネスチャンスの地位格差をなくし、全国の起業家・ベンチャー企業の価値を成果に変えたい」との信念で日々奔走中。
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